未来からくる列車

東京のメトロの駅には
不思議な生き物が住みついていて
朝早くホームに立つと
のっしのっしとやってくる

メトロの切符を体中に貼りつけて
もうゆけるところはないよ
ここから先はよした方がいいよと
いいながら
ゆっくりゆっくり過ぎてゆく
不思議なまあるい生き物を
僕は何度も見かけたことがある

どこまでも
遠く遠く出かけていける
深く深く沈んでゆける
君の行き先は聞かないけれど
僕は既に知っている
君がどこからやって来て
どこへと戻ろうとしているのか
自分を黒い帽子にしまい込んで
姿を
見えなくしてしまう君と
いつも
丸裸な僕とは
永遠に出会うことはない

東京のメトロの駅で
アイスクリームを頬ばると
いつの間にか自分自身もとけて
二本の線路に染みこんでゆくそうだ

なんだかカフカの小説に出てくる
グレゴリー・ザムのようだと君がつぶやき
僕はモディリアニの描く女の青い瞳に
吸い込まれていくような気がするという

坂道を
のぼりきったところにある
メトロへの入り口で
僕は見かけた
君と君のたましいが
仲良く手をつなぎながら
二枚の切符を握りしめていたのを

さて
僕の明日は
君の今日だ

そろりそろりと
未来からの列車が滑り込んでくる

未来からの列車が
もうすぐ
僕らを迎えにやってくる

 

コメントを残す