海太郎の子守唄

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くりくりの髪と
ときどき思いもよらないことばで
僕らの頬をゆるめてくれる
海太郎は沖縄の蒼い海で生まれた

海太郎が生まれたとき
こともあろうに
父親になるこの僕は
病院を抜け出して
近くのパン屋であんパンをかじっていた
それを今でも不実だと責められる

最初はふたつだった雑煮椀が
みっつになって
よっつになって
いつつになり
新しい年を迎えた時に
僕らの家族が出来上がる

誰にも崩せない
おうちです
おうちの中に揃っていなければ
ならないものは
お箸やフォークではありません
テレビでも新聞でもありません

新年を祝う雑煮椀が
やがて
よっつになって
みっつになって
そのうち
最初のふたつに戻る時
海太郎はどんな大人になっているのでしょう
どこから
僕たちを見ているのでしょう
海太郎の食卓には
いくつの椀が並んでいるでしょう

僕たちを驚かせた
海太郎の孤独感ときらめくような感性を
僕らふたりが
ジャンケンをしてもわかちあうことは
もはや出来なくなっていることでしょう

くりくり頭に
ふっくらほっぺ
夢みているのは
七色のおさかな

眠りにつくならあとすこし
うたってあげようこもりうた

ほしいものを
教えておくれ
見たいものを
きかせておくれ

眠れないなら寝なくていいよ
うたってあげるよこもりうた

海太郎は残念ながら
生まれてすぐに
諒治という名前に変わりました
それでも彼が海からやってきたことに変わりはありません
僕たちの知らない海からやってきて
いつのまにか
大きな海の真ん中に
ポカリポカリ浮かんでいます

僕たちが唄う子守唄を
気持ちよさそうに聞きながら
蒼い海のまん中で
ポカリポカリと浮かんでいます

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