表札のない街を歩く
名付けることの難しい植物が生い茂って
手招きを繰り返す街
近所の本屋で新聞紙大の地図を買って
クリーニング店の軒先でひろげ
通りかかる人達に君の住む家を訊ねてみるが
誰も知ることのなかった君の住む家
めぼしいところに赤い大きな印をつけて
足を進める
ただ
二・三人の人達だけが君の名前を耳にしていた
一人は海外からやって来た船員で
もう一人は道路工事の五十を過ぎたおやじ
あとは正体のわからない
音楽家
表札のなくなった街には
今も白い風が吹いている
訪ねるひとはなくしたものを探せない
訪ねることのないひとだけが
今も
表札のなくなってしまった街を知っている
表札のなくなっている街に
住むことができる
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