希望 と 願 望

希望と願望が列車に乗って
夏の短い旅を続ける
希望にははかない望みがあり
願望にはせつない望みがあった

列車の窓から過ぎていく光景は
新しく鮮やかな光にあふれていた
ウキウキする旋律が聞こえていた
希望と願望の前には見知らぬ時間が過ぎていった

港町に向かえば女達があふれていた
大漁船を待ちこがれた赤錆びた腕
お人好しの老漁夫を抱き上げる小さな腕
遠くの祭り唄に合わせて踊る太い腕

青い灯りが町中に流れていく
勇敢な大男は今日も元気で
華麗なピアノ弾きは昨日の内に化粧を終えている
希望と願望の前には見知らぬ時間が過ぎていった


絵葉書の中にあった山を眺め
遠くの街を想った

山の中にいる昔の
母親の腕に抱かれている子供が
ずいぶん懐かしかった

欲の深い女の子が希望と願望の前に現れて
ねえ、どこへゆけばいいの と聞いている
希望も願望も 自分の腕の中にさ と応えたかったけれど
少女の頭をなでながら
港町から遠く離れた町外れの
小川に住んでいるシジミ採りに出かければいい
と告げながら背中をむけた
希望と願望に見知らぬ時間が過ぎていった

短い夏の旅を続けながら
今の世に小さな腰掛けのひとつもないことを知った
他人の大事な宝物を見れないで泣いている
子供の卑しさでもなく
他人の恥ずかしがっているところをひろげて喜んでいる
子供のさみしい心でもなかった

居眠り好きなことと
取り上げたらきりのないほら話
幸福に続く旅路は見あたらない
文学はいつも救済で
絵画は永遠の愛情にだけ似ていることを知った

希望と願望が列車に乗って夏の短い旅を続ける
希望にははかない望みがあり
願望にはせつない望みがあった
希望と願望は山の頂から勇気に向かって
夏の絵葉書を
あふれる気持ちの隠しよう知らずに

激しい動作で投げつけた

 

コメントを残す